海辺のアルパカ

 

 

飛行機は駄目だと思う。レオナルド・ダ・ヴィンチだとか、ライト兄弟だとか、リンドバーグだとか、航空会社の社長の話をそのまま信じられるか。まず、そんなに大きな物体が空を飛べるという事自体がおかしい。それに形が怪しい。ウィンナーみたいな細長い物に羽搏きも出来ない翼を付けておいて、しかも、ジェットエンジンだとか、ランディングギアだとか、レーダー、慣性航法装置なんて色んな嘘をたくさん付けた後に、親切で美しくて素敵な乗務員達が出て来て、微笑みながら上手く流そうとしても、どうやら私には中途半端なインチキに見えるだけだ。

船も駄目だと思う。鉄は水より重いじゃないか。

あ、もちろん私も浮力だとか揚力だとかいう物が何かは分かっている。私が言いたいのは、飛行機は飛ぶから自分の乗っている飛行機も飛んでいる筈で、船は浮くから自分の乗っている船も海の上に浮いている筈だと、皆あまりにも当たり前に思っているという事だ。

しかし、飛行機は時々落ちたりする。人々が忘れた頃にまた警告するように。そして、船が沈んだという事実は決して忘れてはいけない。

新しい写真がアップされた。アルパカ様がソウル特別市広津区こども大公園にいます。首が長くて可愛い獣よ。モフモフな毛並みの君はとても暖かい即属だろう。アルパカ。わが人生の光、わが腰部の炎。わが罪、わが魂。アルーパーカー:舌の脇を掠る空気、唇が離れて弾け出る波、軟口蓋を優しく擽る舌根。アル。パ。カ。

アルパカは主にペルーやボリビアに生息するが、今時は何処にもいるみたい。こども大公園のアルパカはオーストラリアから来たそうだ。そして、アルパカは独りが苦手なので、必ず二頭以上を一緒に暮らすようにしないといけないと言う。なので、こども大公園のアルパカも一組だ。名前はマチュとピチュ。

 

新しい動画がアップされた。アルパカ様がペルーのサンバルトロ海岸にいます。アルパカはサーフィンをしていた。えぇ、なんだって? そうだ。一人の男と一緒に黄色いサーフボードに乗っていた。もっと正確に言うと、サーフィンをしているよりはサーフィン訓練を受けているのだったが、何だか楽しんでいると言うよりは怯えているような様子だった。サーフボードの前方にはアルパカが立っていて、あ、もちろん四つ足で立っていて、後方には男が立って、あ、もちろん両足で立って、波が押し寄せると、アルパカはぐずぐずしながらこうなると分かっていたと言わんばかりに海へ飛び込んだ。幸いライフジャケットを着ていたため溺れはしなかったが、ずぶ濡れになってしまった毛が体にくっ付いている姿は何だか心地良さそうには見えなかった。

この男は子供たちにサーフィンを教える人で、それだけでは気が済まなかったのか犬にもサーフィンを教えているそうだ。そして、このような人たちが世界中には結構たくさんいるらしく、毎年国際犬サーフィン大会が開催されていて、オーストラリアで開かれたある大会でこの男はカンガルーとコアラがサーフィンをする姿を目撃するようになる。実は男も犬以外にオウム、ハムスター、猫と一緒にサーフィンをした経験はあった。しかし、オーストラリア人がカンガルー、コアラと一緒にサーフィンをする姿は彼に深い感銘を与えたようで、男はペルー人であれば当然ペルーを代表する動物であるアルパカと一緒にサーフィンをするべきだと思うようになったそうだ。

それなら ー 私は考えた ー 韓国を代表する動物とは何だろう。ソウルオリンピックのマスコットはホドリで、ホドリは虎だから、やっぱり虎だろう。しかし虎と一緒にサーフィンをするというのは、ええと、ホドリがヨットに乗るみたいに何気なく出来る事ではないじゃないか。この世で最もピュアな虎を連れて来て一緒にサーフボードに乗るとしても、後ろの人はいかに緊張するだろうか。

 

地図を見る。この地にこんなにたくさん山があるのに虎が一頭もいないなんて。ここに虎が住める場所がただ動物園くらいしかないという事実がなんだか切なく感じた。檻に閉じ込められた虎も可哀想だけど、虎の檻の隣に住む動物たちも不安だし、だとして、今更山に虎を解き放すなんて事をしたら、とんでもない事になるだろう。人も虎も可哀想になるに違いない。

朝鮮半島の地図の形は兎に似ています、と言ったら大変怒られた事がある。初等学校の時だった。それは日帝時代に我々の意気を挫く為に作り出した話だって。元々朝鮮半島の地図は虎の形だって。ほら、この絵をちゃんと見ろ。私はちゃんと見た。一頭の虎が大韓民国全図の形の枠に無理矢理詰め込まれている姿を。今、またその絵を眺めてみても、虎はとても可哀想に見える。

 

サンバルトロ海岸までの道を調べてみる。ソウルからロサンゼルスまで行って、そこで飛行機を乗り換えて、リマまで、二十四時間。

 

サンホセへの道を知ってる?

しばらく離れていて

道を間違えてしまいそうなの

サンホセへの道を知ってる?

戻って見つけるのよ

サンホセで心の安らぎを

ロサンゼルスは大きなフリーウェイよ

まず100ドルを払って車を買うの

たぶん一週間か二週間で

あなたはスターでしょうね

一週間が一年となり時はすぐに過ぎ去るわ

そしてスターになれなかった人たちは

車を停めてガソリンを入れているの

サンホセでは思いっきり息ができるの

場所もたくさんあるし

泊れる場所も見つけられる

私はサンホセで生まれ育ったの

サンホセに戻って見つけるの

心の安らぎを

名声とお金は磁石のようで

人を故郷から遠ざけるの

心の中に夢があればあなたは独りじゃないけど

夢は埃になって消えゆくもの

すると友もなく独りになって

車に荷物を詰め込んで遠くへ去って行くの

サンホセにはたくさんの友だちがいるの

サンホセへの道を知ってる?

サンホセへ帰るのが待ち遠しいの

 

オーストラリアに行って来た。エレベーターに入ってオーストラリアのボタンを押したらすぐだった。ドアが開いて私が降りた場所は動物園だった。人気の無い荒涼とした雰囲気の中、檻の中には動物もいなかった。私はアルパカと書いてある立て札の前で片言の英語で管理人に尋ねた。

“ウェアー イズ アルパカ? アルーパーカー。アル。パ。カ。”

しかし、管理人は理解できなかったよう、首を横に振りながらどこかに去ってしまった。私はもう何をどうしたら良いか分からず、漠然とした気持ちでその場に立っていた。アルパカを見れないならせっかくオーストラリアまで来た意味が無い。それに、今気付いてみればここは冬、風が冷たかった。空は薄暗くて、すぐにでも雪が降って来そうだった。どうしようもなく、もう帰るしか無いと思いながらエレベーターのあった場所に向かった。

一体どういう事なんだろう。ここのアルパカは皆違う国に行ってしまったのかな。それならオーストラリアは、ただしばらくの間留まるだけの場所だったのかな。むしろこども大公園に行った方が良かったのかな。それとも、最初からペルーかボリビアに行けば良かったのかな。しかし、先のエレベーターにはペルーやボリビアのボタンは無かった気がする。あれ、韓国ボタンはあったっけ?

慌ててエレベーターに入りボタンたちを見つめた。しかし、Kの所にも、Rの所にも、Sの所にも韓国は無かった。困った気分だった。どうやって帰ればいいのだろう。今見ると、ペルーボタンとボリビアボタンはあるけど、どっちかに行ってみようか。でも、とりあえずは家に戻って、何か羽織る物を持って来ないと。ペルーかボリビアに行ってここより寒かったら、本当に大変じゃないか。

その時、一番端にある音声認識ボタンに目が止まった。これなら韓国に帰られるかもしれない。しかし、注意しなければならない点がある。ただコリアと言ったら、北朝鮮の方に行ってしまう場合があるからだ。だから、リパブリック・オブ・コリアと言うよりは、サウス・コリアと言った方が増しだ。そして、本当に確実にしたければ、ソウル・コリアと言うのが一番良い。何故か分からないが、私はこういった事実をもう知っていた。失敗したら大変な事になるので、何回か発音の練習をしてから、大きなため息を吐いた後に、音声認識ボタンを押した。ドドン、と音がして、これがシリなのかオッケーグーグルなのかはよく分からないけど、本当に正確に発音すれば聞き取るだろう。私はイントネーションとアクセント、そして特にRの発音に気をつけながら、極力ネイティブに聞こえるように言った。

“ソウル、コリア。”

 

新しいメッセージが受信された。アルパカ様がカルフォルニアのサンタクルーズ海岸にいます。アルパカはひとりでサーフィンをしていた。最初はサーフボードの上に四つ足で立っていて、波が打ち寄せると前足を上げて後足で立ち上がり、格好良く乗るのではないか。

アルパカ!

おお、アンニョン!

波に乗るの上手になったね?

うん、もう結構慣れてね。楽しいしさ。

良かった。この間はちょっと可哀想に見えたよ

いつの事?

ペルーでね。

まあ、何をしたって最初はみんな大変な訳だ。

今はなんでサンタクルーズにいるの?

ロスに行ったら凄く大変でな

サンホセに帰る途中で道に迷っちゃってさ

え?サンバルトロじゃなくて?

今時アルパカなんて何処にもいるじゃない

オーストラリアにはいなかったけど

さて、ここからサンホセまでの道知ってる?

調べるね

サンタクルーズ・メトロセンター

パシフィック・ステーションに行って

17番バースに乗るの

一時間九分かかって

運賃は7ドルだって

ありがとう

で、君は韓国人だよね?

うん、なんで?

韓国を代表する動物って

虎だっけ?

え、ホドリは虎だからね

ホドリ?

そういうものがあったんだ

オリンピックのマスコット

どうして?

今ね誰かここで

虎とサーフィンをやってるんだけど

背中に太極旗が貼ってあるんだ

 

 

会社に行ったら椅子が無かった。私は途方に暮れて周囲を見回したが、オフィスの人々はモニターをじっと見詰めながらキーボードを打ったり、受話器を持って通話をしたり、いきなり何かを思い出したように、すっくと立ち上がり書類を持ってコピー機に向かって走って行った。そして、皆んな私の目を避けていた。

どうして出勤時間10分前に皆んなが来ていて、どうしてこんなに忙しくなっているのかも疑問だったが、それより大事なのは私の椅子だった。私は課長の前に行った。

ー 社長の指示だ。椅子を一つ減らして、一番出勤の遅い社員は立って働くという事ね。

ー ジョン君には連絡が届いてないと?何故だ?フェイスブックで皆んなに知らせた筈なのに。何だ?フェイスブックをやってない?何とんでもないことを言っている。身体健全な若者が何でフェイスブックをやらない?

ー 立って働いた方が健康にも良いらしい。フェイスブックの韓国支社もそうしてるって。ずっと座りっぱなしだと背骨が歪んじゃうとか聞いたことないか?社員が健康じゃないと会社にも迷惑だし。

ー ジョン君、知ってるかい?アーネスト・ヘミングウェイ、ベンジャミン・フランクリン、トマス・ジェファーソン、あと誰だっけ…。あ、そうだ。ウィンストン・チャーチルも机の前に立って働いたそうだ。チャーチル首相はノーベル文学賞も取った人じゃないか。韓国にはノーベル賞を取った人がまだ一人もいないのに。

ー で、ジョン君はどうしてフェイスブックをやらないんだ?カカオトークはやってる?そう言えば、カカオトークの会社も立って働くんだってな。

ー スタンディングデスクを購入する予定だったけどね、経理部から予算がなかなか下りなくてさ。来月入るらしい。

ー それで再来月にはな、オフィスにサイクルマシンも入るんだってよ。立っててちょっと大変だったら、サイクルに乗ればいいじゃないか。パク君の腰がもっと丈夫になったら、ジョン君にも良いだろう。ハッハッハッ。

ー ああ、冗談だよ、冗談。それで、ジョン君はな、そんなに立ってるのが嫌だったら、パク君の膝の上にでも座ったらいいじゃないか。どうせ結婚する相手だろ。ハッハッハッハッ。

ー おい、何をしてるんだ?上司をな、こんな…困らせるんじゃない!おい、パク君。速くこっちに来て。この人連れ出してな、ちょっと落ち着かせて。

 

 

椅子はそこに誰も座っていなくても

椅子のままです

けれど椅子は家とは違う

家はもう家ではないです

きつく抱きしめてくれる人がいないなら

おやすみのキスの相手がいないなら

部屋はそこに闇しかなくても

部屋のままです

けれど部屋は家とは違う

家はもう家ではないです

ふたりが遠く離れてしまったなら

どちらかが心を痛めているなら

ふと、あなたの名前を呼んでみる

すると突然、あなたの顔が現れます

けれどそれは無謀なゲーム

最後は涙で終わるから

だからダーリン、お願いだから

たった一度の過ちで二人の全てを壊さないで

僕はひとりでは生きられない

この家をもう一度我が家に変えて下さい

階段を上り、鍵を回せば

どうか、わたしを愛するあなたが

まだそこにいてくれますように

 

 

横向きに寝返った。目の前に椅子が見える。椅子は家とは違う。部屋も家とは違う。家はもう家ではない。何処にも身を置く場所が無いような気がして、どんな姿勢で寝ようとしても窮屈に感じてしまう。

新しい画像がアップされた。アルパカ様がアリス様と一緒に不思議な国にいます。画像はジョン・テニエルが描いた四十二枚の挿絵の中八枚目、ドードー鳥がアリスに指ぬきを渡す場面だった。よく見れば奥の奥にアルパカの耳みたいな物が微かに見えるようでもあった。アリスはコーカス・レースで優勝して、元々自分の物だった指ぬきを賞で貰った。他の動物たちも皆んな優勝をして、アリスからキャンディを貰った。多分アルパカもキャンディを貰った筈だ。アルパカはどうしてそこへ行ったのだろう。もしかしたら、サーフィンをして体が濡れてしまったからかもしれない。コーカス・レースは体を乾かす最高の方法だから。

不思議な国へ行きたい。もし今、ポケットの付いたチョッキを着ている白ウサギが私の前に現れて、’あっ、これは大変だ、遅刻する’と呟き、ポケットから懐中時計を取り出して時間を見た後、私の知らないある穴の中に飛び込んで行ってしまったら、私はその後をついて行けるだろうか。

飛行機は駄目だと思う。船も駄目だと思う。汽車もバスも車も自転車も駄目だ。歩く事すら難しい。

 

恋をして何か得することあるの?

膨らんだ心を破る男の子

針を持ってやって来る男の子がせいぜい

もう恋なんてしないわ

男の子にキスしたら何かいい事あるの?

ばい菌をいっぱい貰って肺炎になるだけじゃない

その後は電話もしてくれない

もう恋なんてしないわ

そこのあなた、私に恋を語らないでちょうだい

私も全部経験したし、今は本当にせいせいしてるの

がんじがらめにする恋という鎖から抜け出せたもの

だからこうしてあなたに忠告してあげるのよ

恋をして何を得られるの?

嘘と苦痛と悲しみばかり

だから、少なくとも明日までは

もう二度と恋なんてしないわ

 

新しいリンクがアップされた。アルパカ様が’I’ll never fall in love again’の二十二番目のアポストロフィの中にいます。私は曲を口ずさみながら一個一個数えてみる。ザッツ、アイル、アイル、ヒール、アイル、ドント、アイル、ドント、ワッツ、コーズ、アイヴ、アイム、アイム、アイム、アイル、アイル、アイム、アイム、アイル、ドント、アイル。そして、アイル。

私は最後のアポストロフィに手を持っていく。そして、少し迷ってから指先で青いハイパーリンクに触れた。このまま遠くどこかへ行ってしまいたい。地球は丸いから、どんどん歩いて行って、世界中のアルパカたちに全部逢いたい。そうしてずっと数を取りながら歌を歌い続けると、ある瞬間、最後のアポストロフィの中に飛び込めるかもしれない。

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